【連載コラム:第4回】病気とともに働く時代へ ― 治療と仕事の両立がもたらすキャリアの転機(6回シリーズ)

相談室で資料を見ながら話し合う医療者と相談者

カテゴリー:メンタルヘルス対策 / 健康経営 / 組織開発
読了時間の目安:約5分

人生100年時代を迎え、がんは「治療しながら働く病気」へと変わりつつあります。本稿では、病気や治療による見えないストレスと、企業が果たすべき役割について考えます。

目次

病気をきっかけに訪れるキャリアの転機

「がんと診断された社員が、今後も働き続けられるのか悩んでいる」

「休職後に復職したものの、以前のようには働けず、自信を失っているように見える」

「持病の治療を続けながら働く社員に、会社としてどのような支援を行えばよいのか分からない」

こうした悩みは、今後ますます多くの企業で身近なものになっていくかもしれません。

厚生労働省が公表した2023年全国がん登録によると、2023年に新たにがんと診断された方は99万3,469人でした。また、日本人が生涯のうちにがんと診断される確率は男性61.1%、女性50.1%と推計されています。
▶ 参考:厚生労働省「2023年全国がん登録罹患数・率報告」の結果について

つまり、日本は「2人に1人ががんになる時代」を迎えているのです。

一方で、人生100年時代といわれる現在、70歳前後まで働くことは決して珍しいことではありません。

働く期間が長くなる中で、50代でがんを経験した方が、その後も治療や経過観察を続けながら10年、15年、あるいはそれ以上の期間にわたって働き続けることも珍しくない時代になりつつあります。

病気は健康上の問題であると同時にキャリア上の転機でもある

病気になると、多くの人はまず身体のことを考えます。

治療はどのくらい続くのか。これまでどおり生活できるのか。仕事は続けられるのか。

しかし実際には、それと同じくらい将来についても考えることになります。

  • 今までどおり働けるだろうか
  • 職場に迷惑をかけるのではないか
  • 収入は維持できるだろうか
  • 今後のキャリアはどうなるのだろうか

病気は単なる健康問題ではありません。

それまで当たり前だった働き方や役割、人との関わり方、将来設計、さらには人生観そのものにまで影響を与えることがあります。

だからこそ病気は、医療上の出来事であると同時に、人生やキャリアにおける大きな移行期でもあるのです。

ポイント

治療と仕事の両立支援は福利厚生ではありません。企業の人的資本を守り、次世代へ継承するための経営課題でもあります。

50代・60代の中核人材を失うリスク

管理職やベテラン専門職が持つ人的資本

がんの罹患が現実的になる50代から60代は、多くの企業において中核人材として活躍している世代でもあります。

管理職であれば、経営層の方針や意思を現場が理解し実行できる形に翻訳し、組織を動かしています。

また、現場の状況や顧客の声を整理し、経営層が迅速に判断できる形で伝える重要な役割も担っています。

専門職のベテラン層も同様です。長年の経験によって培われた専門知識や技術、人脈、顧客との信頼関係、業界特有の勘どころなど、多くの有形無形の資産を持っています。

離職によって企業が失うもの

こうした人材が病気をきっかけに離職すれば、単に一人の社員を失うだけではありません。

企業にとっては、人的資本、知的資産、顧客との信頼関係、組織記憶までも失う可能性があります。

特に代替要員の確保が容易ではない中小企業において、その影響は決して小さくありません。

治療と仕事の両立支援は、社員への配慮や福利厚生の問題だけではなく、企業が保有する人的資本を守り、未来へつないでいくための重要な経営課題でもあるのです。

治療中には複数の「見えないストレス」が重なる

病気を経験した方が抱えるストレスは、治療そのものだけではありません。

治療による身体的負担、副作用、体力低下、通院や検査への対応に加え、再発への不安や仕事への影響、収入への心配、職場への申し訳なさなど、さまざまなストレスが重なります。

特に責任ある立場の人ほど、「周囲に迷惑をかけてはいけない」と考え、一人で抱え込んでしまうことがあります。

診断されたら退職する、と一人で決めない

治療と仕事の両立は十分に可能になっている

現在では、がん相談支援センターや両立支援コーディネーターなどの支援体制も整備されています。

病気になったから働けなくなるのではなく、「どのように働き続けるか」を考える時代になっています。

経営者・人事担当者は何を準備すべきか

まずは相談できる環境をつくる

「病気になっても相談できる会社である」というメッセージを経営者が示すことが第一歩です。

働き方を一緒に考える

通院しやすい勤務体制、一時的な業務負荷の調整、時差出勤、短時間勤務、テレワークなどを本人と対話しながら検討します。

医療機関や支援機関と連携する

主治医、産業医、産業保健スタッフ、がん相談支援センターなどとの連携も重要です。

「支援される人」ではなく「力を発揮できる人」として関わる

治療によって体力や働ける時間は変わっても、知識や経験、判断力、人脈まで失われるわけではありません。

若手育成や知識継承、顧客との関係維持など、その人だからこそ果たせる役割があります。

企業が考えるべきなのは「以前と同じように働けるか」ではなく、「今の状況の中でどう力を発揮できるか」という視点です。

がんとともに生きる時代へ

がんは「長く付き合う病気」へ変わりつつある

かつて、がんは不治の病として語られることが少なくありませんでした。

しかし現在は医療技術の進歩により、多くのがんで治療成績が向上しています。

がんは「治療しながら生きる病気」「長く付き合う病気」へと変化しつつあります。

病気は人生を見つめ直す契機にもなる

治療を受けながら活躍している人もいます。

病気を経験したことで、家族との時間や本当に大切な価値に気づく人もいます。

人生の再設計がその後を大きく左右する

重要なのは、「がんになった」という事実だけを見るのではなく、「これからどのように生きていくか」という視点を持ち続けることです。

病気を人生の終わりとして捉えるのではなく、人生を見つめ直し、新たな働き方や生き方を再設計する契機として捉えることが、その後の人生や職場でのパフォーマンスにも大きく影響します。

企業に求められる支援のあり方とは

治療と仕事の両立支援は、一部の社員だけの問題ではありません。

今後は、管理職やベテラン専門職を含む中核人材が、治療や経過観察を続けながら長期間働くことを前提として、組織のあり方を考えていく必要があります。

治療と仕事の両立支援は、社員を守るだけでなく、企業が長年培ってきた人的資本を活かし、未来へつなぐ取り組みでもあるのです。

次回予告

昇進や異動、育児や介護、そして病気。

私たちは人生のさまざまな移行期に直面します。

次回は、そのような変化や逆境を乗り越える力として注目されている「レジリエンス」について考えていきます。

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