【連載コラム:第5回】変化をしなやかに乗り越えるレジリエンスとは - トランジションに向き合うための6つの視点(6回シリーズ)

都市の橋の歩道をランニングする二人の人物

カテゴリー:メンタルヘルス対策 / 健康経営 / 組織開発
読了時間の目安:約6分

「新しい仕事や役割になかなか適応できず、疲弊してしまう」

「育児や介護、病気といった変化を経験しても、自分なりの働き方を見つけ、前へ進む人がいる」

「責任感が強く、懸命に頑張っていた社員が、ある日突然、燃え尽きそうになる」

このような違いは、どこから生まれるのでしょうか。

本連載ではこれまで、昇進・異動・組織改革、育児・介護、病気と治療など、働く人が直面するさまざまな移行期、すなわち「トランジション」を取り上げてきました。

トランジションの時期には、役割、環境、人間関係、働き方、将来への見通しなどが大きく変化します。前向きな出来事であっても、変化へ適応するまでには少なからずストレスが生じます。

そのような変化や困難に直面したとき、揺らぎながらも心身のバランスを取り戻し、状況に応じて自分を立て直していく力が、レジリエンスです。

今回は、レジリエンスとはどのような力なのか、そして日常の中でどう育んでいくことができるのかを考えます。

目次

レジリエンスは「折れない強さ」ではない

レジリエンスは、困難や逆境、急激な変化に直面したときに、その状況に適応し、回復していく過程や力を表す概念です。

ここで注意したいのは、レジリエンスが、

  • 何があっても動じないこと
  • 弱音を吐かずに頑張り続けること
  • 自分一人で困難を乗り越えること
  • 感情を抑えて仕事を続けること

を意味するものではないという点です。

がむしゃらに頑張り続けることは、短期的には困難を乗り越えているように見えるかもしれません。しかし、疲労やストレスを抱えたまま無理を続けることを、レジリエンスと考える必要はありません。

自分の状態に気づき、必要なときには立ち止まる。変えられないことを受け入れながら、今できることへ力を注ぐ。そして、一人で抱え込まず、時には周囲の力を借りる。

そうした柔軟な調整を重ねながら、再び前へ進んでいく力がレジリエンスなのです。

同じトランジションでも結果が異なる理由

同じような昇進や異動を経験しても、その受け止め方や影響は人によって異なります。

ある人は、新しい役割を成長の機会として捉え、周囲に相談しながら徐々に適応していきます。

一方で、別の人は、「期待に応えなければならない」「管理職なのだから弱音を吐けない」と考え、従来の業務も新しい役割もすべて自分で抱え込んでしまうかもしれません。

育児や介護、病気についても同様です。

本人の能力や意欲だけではなく、それまでに培ってきた生活習慣、ストレスへの気づき、対処方法、価値観、周囲との関係性など、さまざまな要素がトランジションへの適応に関わります。

厚生労働省の「こころの耳」では、ストレス反応の現れ方は、仕事外の要因や個人要因だけでなく、上司や同僚からのサポートなどによっても影響を受けることが紹介されています。

▶ 参考:厚生労働省「こころの耳 15分でわかるセルフケア」

つまり、レジリエンスを単純に「その人の心が強いか弱いか」という問題として捉えることは適切ではありません。

では、変化や困難にしなやかに向き合うために、私たちは日頃からどのようなことを大切にすればよいのでしょうか。

レジリエンスを育むために大切にしたい6つの視点

レジリエンスは、一つの能力だけで説明できるものではありません。

ここでは、働く人のセルフケアの考え方なども参考にしながら、変化や困難にしなやかに向き合うために大切にしたいことを、6つの視点から考えてみます。

1.心身の健康を整える

変化へ適応するためには、まず心身の状態を整えることが大切です。

十分な睡眠、バランスのよい食事、適度な運動、休養などは、健康を維持するとともに、ストレスへ対処するための基盤にもなります。

厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、睡眠は健康の増進・維持に不可欠な休養活動とされ、睡眠不足は日中の眠気や疲労に加え、注意力や判断力の低下、それに関連する作業効率の低下などにもつながることが示されています。

▶ 参考:厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」

レジリエンスを育むためにも、まず日々の生活を整え、自分を回復させる習慣を持つことが大切です。

2.自分のストレスに気づく

ストレスを完全になくすことはできません。

大切なのは、自分にどのようなストレス反応が現れやすいのかに気づき、早い段階で対処することです。

例えば、寝つきが悪くなる、食欲が変化する、仕事のミスが増える、人との会話を避けるようになるといった変化は、心身の負担が高まっていることを知らせるサインかもしれません。

厚生労働省の「こころの耳」でも、働く人自身がストレスに気づき、それに対処するための知識や方法を身につけることの重要性が示されています。

自分の変化を早めに捉えることが、負担が大きくなる前に対処するための出発点になります。

3.自分に合ったコーピングを持つ

コーピングとは、ストレスに対処するための考え方や行動を指します。

休息する、体を動かす、人に話す、問題を書き出す、趣味の時間を持つなど、役立つ方法は人によって異なります。

「こころの耳」でも、リラクセーション、ストレッチ、適度な運動、快適な睡眠、親しい人との交流、仕事から離れた趣味など、さまざまなストレスとの付き合い方が紹介されています。

重要なのは、自分に合った方法を知るとともに、一つの方法だけに頼りすぎないことです。

例えば、いつも運動で気分転換している人でも、病気やけがをしたときには同じ方法を使えないことがあります。

休養を取る、誰かに相談する、状況や考えを書き出して整理するなど、いくつかの方法を持ち、状況に応じて使い分けることが、変化に柔軟に対応する助けになります。

4.自分の価値観と目標を確かめる

トランジションの時期には、それまで当然だと思っていた役割や働き方が通用しなくなることがあります。

昇進によって、仕事の中心が「自分で成果を出すこと」から「部下やチームを通して成果を生み出すこと」へ変わる。

育児や介護によって、仕事に使える時間や優先順位が変わる。

病気によって、これまでと同じ働き方を続けることが難しくなる。

そのようなときには、

  ・自分は何を大切にして働いているのか
  ・これから自分はどうありたいのか
  ・今の状況で何に力を注ぎたいのか

を改めて考えてみることも大切です。

以前とまったく同じ方法で働けなくなったとしても、自分が大切にしているものまで失われるとは限りません。

価値観や目標は困難そのものをなくしてくれるものではありませんが、環境や役割が変化したときに、これからどの方向へ進むのかを考えるための手がかりになります。

5.変えられないことを受け入れ、できることに取り組む

困難に直面したとき、すべての問題を解決できるとは限りません。

病気そのものをなかったことにはできない。親の介護が必要になった事実も変えられない。組織改革によって、以前の体制へ戻れないこともあります。

大切なのは、難しい現実を無理に肯定することではありません。

今起きていることを事実として捉え、

  • 自分で変えられること
  • 周囲と相談すれば変えられること
  • 現時点では受け入れる必要があること

を分けて考えてみます。

すべてを一度に解決しようとするのではなく、問題を整理し、今の自分にできることから取り組む。

そうした柔軟な問題への向き合い方も、変化に適応していくうえで大切です。

6.周囲の力を借りる

レジリエンスは、すべての問題を一人で解決する力ではありません。

自分だけでは解決が難しいときには、誰かに相談し、自分だけでは得られない知識や支援を得ることも大切です。

上司や同僚、家族や友人、産業保健スタッフ、相談機関、医療機関など、周囲にはさまざまな相談先や支援のリソースがあります。

相談することは、自分の弱さを示すことではありません。一人では見つけられなかった選択肢に気づいたり、自分の状況を整理したりするための、一つの対処行動でもあります。

レジリエンスは日常の中で育むことができる

レジリエンスを、単に生まれつきの「心の強さ」と捉える必要はありません。

レジリエンスは、個人の性格だけではなく、日々の経験や行動、周囲との関わりなどを通して変化し、育まれていくものとして考えることができます。

  • 十分な休養を取る
  • 自分のストレスに気づく
  • 自分に合った対処方法をいくつか持つ
  • 大切にしたい価値観や目標を確かめる
  • 問題を整理し、今できることから取り組む
  • 必要なときには周囲の力を借りる

こうした日々の経験や行動を積み重ねながら、変化や困難に向き合う力を少しずつ育んでいくことができます。

ときには立ち止まることも、それまでのやり方を手放すことも、誰かに助けを求めることも必要でしょう。

レジリエンスとは、困難を感じなくなることでも、傷つかなくなることでもありません。

変化による揺らぎや迷いを経験しながらも、自分の状態を整え、状況に応じて進み方を変え、再び自分なりの一歩を踏み出していく力なのです。

そして、この力は一度身につければ完成するものでもありません。

仕事や人生の中でさまざまなトランジションを経験するたびに、自分自身について知り、新しい対処方法を身につけていく。その積み重ねの中で、レジリエンスも育まれていくと考えられます。

次回予告

これまで、昇進・異動・組織改革、育児・介護、病気と治療など、働く人が直面するさまざまなトランジションについて考えてきました。

今回は、変化に向き合い、そこから再び前へ進んでいくための「個人のレジリエンス」を取り上げました。

しかし、変化や困難を乗り越えることを、働く人一人ひとりの努力だけに委ねることはできません。

最終回となる第6回では視点を個人から組織へ広げ、社員が変化や困難に直面しても支え合い、適応していくためには、どのような職場環境や仕組みが必要なのかを考えます。

次回は、「個人のレジリエンスを支える組織づくり」について考えます。

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